佐藤一朗「ロード選手にも通じるトラックトレーニングの重要性」

Posted on: 2015.04.06

■動作解析[中速域ダンシングポジション]

先日の動作解析のコラムが少し反響が多かったようなので、今回はその続編と言うことで中速域でのダンシングポジションについてお話ししたいと思います。
 
低速域と中速域のダンシングポジションは単に速度域の違いのように感じますが、身体の使い方としてはかなり意味合いが違ってきます。低速域からのダッシュ時にはペダルに対して最大限のペダル加重をかけることが1番の目的となるので、踏み込んだ際に生じる反作用をしっかりと押さえ込む為に、両手でしっかりとハンドルを引き付け体幹部の筋力を使って骨盤を浮き上がらせないように力を入れていきます。

しかし、速度と共にケイデンスが上がって来ると、踏み込み側はしっかり押さえ込まなくてはならないものの、反対側の脚は上がってくるので、押さえ込みすぎては股関節の動きを抑制する事につながります。
 
そこで必要になってくるのが踏み込み側のハンドルはしっかり引き付けつつ反対側の引きつけは緩めるという動作です。恐らく殆どの人が無意識にこの動作を行っていると思うのですが、この動作をただ漫然と行ってしまうと1つ問題が出て来ます。それは「ハンドルを引き付けてペダルを踏み込んだ側に重心が大きく移動してしまう」ことです。

ちょっと余談です。
 
ロードバイクで走行する際のテクニックとして、脚力を使わずに体重移動で登坂をする方法があります。踏み込み側のペダルに体重を乗せ、下死点まで下がったところで反対側のペダルに体重を移動し、自転車を大きく横に振って走る乗り方です。

この乗り方の場合脚力の消耗を最低限に抑えることが出来るので走りながらでも体力を回復させたり、レース中に力を温存する事が出来ます。しかし自転車は蛇行し踏み込む力が一定にならないので速度は低下してしまいます。
 
ピストバイクでこの乗り方を行った場合、速度の低下だけでなく場合によっては危険を生じる事が考えられます。なぜならピストバイクは空回りしない「固定ギア」を使用しているからです。

ペダルを下死点まで踏み込んだ後、ロードバイクであればギアは空回りするだけですが、ピストバイクでは身体を持ち上げるようにペダルが上がってきてしまうからです。実際にはそこまで危険な状態になる事は殆どありませんが、3本ローラーなどに乗ってもがくとその意味が少しは分かるかも知れません。(転倒の危険がありますので無理はしないで下さい。)
 
話を戻しましょう。
 
トラックで行う中間速度域のダッシュトレーニングでは固定ギアの特性によるロスの削減と、加速力の強化の為に以下の2点を中心に解析をおこなって行きます。
 
①左右の重心移動の遅れのチェック
左右に重心移動を大きく行った場合、下死点まで踏み込んだ後、反対側に重心を移動する迄の遅れが生じ、その間にペダルの回転が進むためペダル加重が行えない。また、重心が踏み込みきったペダルに残っている場合、固定ギア特有の”バック”がかかってしまい速度の低下につながる。
 
②ハンドルの引きつけによる重心の前方移動のチェック
ケイデンスの上昇に伴い身体が不安定になる為、ハンドルを引き付ける様に身体を前方移動させ「ハンドルにしがみつく」様なポジションになる事でペダル加重が減少する。
 
さてここで参考画像をご覧下さい。

【画像①】

前回の低速域ダンシングポジションでも登場した選手の画像です。高校時代はかなり活躍したスプリンタータイプのロード選手です。ロード選手特有の自転車の振り幅の大きさ、それに伴い左右の重心移動は大きく、さらに不安定な上体をハンドル加重にすることで支えています。
 
【画像②】

同じ選手の1年後です。1年前と比べて随分安定感が増してきています。左右の重心移動の幅も小さくなりペダル加重もそれ程大きくロスしていないように感じます。
 
【画像③】

最後に参考画像を見て頂きたいと思います。この選手は今年大学院の2年になる選手ですが、大学3年から競技を始めたので競技歴はまだ3年です。トラックのスプリンターで、脚力だけでなく上半身の筋力強化もかなり進んでいてチームで最もバランスの取れている選手です。

見て解ると思うのですが、自転車の中心線に対して身体の重心が殆ど動いていません。正面から見ていると、このまま真っ直ぐ進んでくるので不思議な感じがするくらいです。

ロード選手にここまでの筋力強化は求めませんが、やはり登坂でのスピード、アタック時のダッシュ力等を求めるのであれば、ペダル加重のロスを生まない程度には上半身の筋力強化は必要だと感じています。

一般的にロード選手はあまりトラックでのトレーニングを行わないようですが、世界のトップレベルの選手のパワーやスピードを考えた場合、日本のトラックレースで戦える程度の力は付けておかないと海外のレースに参加しても厳しい現実が待っているようです。

事実、現在世界のロードレースシーンで活躍している選手はジュニアからアンダーの時期にトラックレースを経験している選手が多いと聞きます。本格的にロードレースに取り組みたいと考えている方は、是非トラックトレーニングにもチャレンジして見てください。

AUTHOR PROFILE

佐藤一朗 さとう・いちろう/自転車競技のトレーニング指導・コンディショニングを行うTrainer’s House代表。運動生理学・バイオメカニクスをベースにしたトレーニング理論の構築を行うと同時にトレーニングの標準化を目指す。これまでの研究の成果を基に日本代表ジュニアトラックチームを始め数々の高校・大学チームでの指導経験を持ち、現在はトレーニング理論の普及にも力を注いでいる。中央大学卒/日本競輪学校63期/元日本代表ジュニアトラックヘッドコーチ                                       ▶筆者の運営するトレーニング情報発信ブログ    ▶筆者の運営するオンラインセミナーの情報

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