福島晋一「ロードレーサーに向いた性格」

Posted on: 2014.06.05

自分は練習中などに、とても面白い(とその時は思った)アイディアが浮かぶ時がある。メモをとりたいが運転中だったり練習中はなかなかそういう訳にはいかない。

自分は明らかに記憶力が悪いと思う。練習後に「はて?何だったか」と思っても、まるで水深100mの所に落とした石を見つけるほど困難な作業で、手掛かりがまるでないと思い出す作業を諦めてしまう。

しかし、ふとしたきっかけで思い出す事もあるのでそれに賭ける事にする。単純なものならそういう訳に行くが、ストーリーの場合は少し難しい訳で、もう出てこないと思ってよい。

最近、物事を深く考える事が、はたして人間にとって幸せかと考える事がある。そして、自転車選手にとっては意外とマイナスになる部分もあるような気がする。

ロードレースと言うのは生ものである。相手は人間だ。タイムトライアルは計算通りに行くかもしれないが、ロードレースは計算しない人間が計算しつくした人間を超える事がある。

そして、計算を超える走りは人々の心に刻まれるのである。

だからと言って、アマチュアの選手に無謀な走りばかりしろと言っているのではない。実力の裏付けがない無謀な走りはただの自殺行為で、それで満足していたのでは、ただのおバカさんである。ユーチューブの視聴者数を狙って怪我をしたり、時には命を落とす人間とかわらない。

ただ、自転車選手の場合、シンプルな思考の人間が強くなる傾向がある。将来の事なんて誰も分からない、ただ強くなってプロになって活躍したい。レースで勝ちたい。

勝った後どうなるかとか、強くなった後の事を心配する人間は自転車選手には向いていないと思う。

評価は周囲の人が決めるものである。契約金も自分の評価で決まるものではない。

人の評価と言うものは最初はなかなか得られないもので、常に自分の評価よりも下であるが、ある一線を越えると、自分の評価を越えて行く印象がある。

その一線まで我慢出来るか出来ないかで、軌道に乗るかどうかが決まる。選手は、まずはバイトで稼いだお金で自転車を買い、レースに行く第1段階。

そして、若くて芽が出ればスポンサーがついて、自転車をするのにお金がかからない状態になる。ここが第2段階。

ここから、プラスに転化するには、チームにとって必要不可欠な選手になることである。スポンサーの売り上げに貢献できる事、自分もしくはチームメイトを勝たせられる事。そして、チームの中でも役割がしっかりとある事。まっすぐな事(これが大事)。成績が良くても評判が悪い選手はチームを失う事がある。

自分の記憶力が悪いのは自転車選手の職業病かもしれない。辛い記憶を自転車に乗らないと思いだせないが自転車を降りるとすぐに忘れてしまう。

これは自転車選手には向いているが、監督としては記憶力を取り戻さねばならない。やはり、メモを持ってローラーが一番かな?!

AUTHOR PROFILE

福島 晋一 ふくしま しんいち/岡山県出身 1971年生まれ。20歳からロードレースを初め、22歳でオランダに単身自転車武者修行。卒業後、ブリヂストンアンカーに所属し2003年全日本チャンピオンを獲得。2004年ツアー・オブ・ジャパン個人総合優勝、2010年ツールドおきなわ個人総合優勝。2003年から始めたチーム「ボンシャンス」代表に就任。2013年シーズンを最後に引退。JOCのスポーツ指導者育成制度でフランスのコンチネンタルチーム「ラ・ポム・マルセイユ」の監督として2年間の研修を経て、現在はアジアのロードレース普及を目指しアジアサイクリングアカデミーを主宰している。 アジアサイクリングアカデミー筆者の公式ブログはこちら

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